
LCK識者CloudTemplerがKeSPAカップ決勝を総括 T1対HLE、勝負を分けたドラフトと構成
KeSPAカップ決勝(T1対HLE)を、LCKコメンテーターのCloudTemplerがゲームごとにレビュー。フィアレスドラフトにおける握手、安定構成と極端構成のせめぎ合い、Game 3-4の殴り合いからGame 5の一方的展開まで、鍵になった要素を整理する。
Game 1
- 構成:HLEはアジール軸の仕掛け構成(キヤナ+ラカン+アンベッサ)だが、T1はジェイス+ヴァルス+オリアナの長射程と、レネクトン+アリスターの前線で安定度を最大化。さらに赤側でアジールとオリアナをあえて通す握手を成立させ、フィアレス視点でも以降のBAN負担を軽くした。
- 試合展開:序盤でT1が主導権を握ると、HLEは長射程に押し返され続け、オリアナのゾーニングもあってマップで動けない。前に出ようとするたびにレネクトン+アリスターの前線に止められ、HLEは焦って無理筋の角度探しを強いられた。
- 鍵:ボットでPeyz+Keriaのヴァルス+アリスターが勝ってスノーボールを始動し、トップでもDoranのレネクトンがアンベッサを抑えて崩れを許さなかった。HLE側はレーン事故が無ければ展開は変わり得たが、早い段階で後手に回ったことで構成上の弱点が一気に露出した。
HLE(青)
BAN: バード、ニーコ、ユナラ / ポッピー、パンテオン
PICK: アジール / キヤナ、アンベッサ / ジン、ラカン
T1(赤)
BAN: ランブル、エイトロックス、サイオン / シヴィア、ジグス
PICK: ジェイス、ヴァルス / オリアナ / アリスター / レネクトン
まずは1試合目から。詳しく入る前に、放送でも言ったことをもう一回言う。準備期間が極端に短かったのに、ここまでドラフトを用意できたのは両チームとも本当にすごい。自分たちを褒めていい。
チャット: うおー。HLEが3対1で勝つって予想してたやつざまあ
T1は本当に予想を一番裏切ってくるチームで、今日もそうだった。別に悔しさで言ってるとか、塩対応してるとかじゃない。ただ驚く、それだけだ。今日のT1は、同じ大会の序盤で見たT1と別物だった。こういうことをやるチームなのは分かってるけど、それでも毎回不思議だ。
それにしてもT1のGame 1ドラフトを見てほしい。スポンサー対応とかのオフの義務もある中で、どうやってここまで用意できたんだってレベルだ。
ドラフトの話に入る前に、もう一つだけ。2025年を通して何度も言ってきたし、他のアナリストやキャスターも似たことを言ってきたはずだ。LoLの話を断定するなって俺はいつも言うけど、フィアレスがある限り、これはずっと真であり続ける。
赤側でシリーズに入るとき、赤側でBANしないといけないチャンピオンのリストがあるとする。Game 1の赤側には選択肢が二つある。
A: Game 1でそれらをBANする。
B: あえて全部スルーして握手を仕掛ける。
どっちも成立するけど、Bを成功させたときの見返りがデカすぎる。
例としてアジールとオリアナを使う。T1はこのシリーズのGame 1が赤側だから、Aのように両方BANすることもできた。でもフィアレスBANで消える枠がない以上、赤側の試合をやるたびにアジールとオリアナに2BAN投資し続ける羽目になる。
フィアレスは、シリーズが進むほど選択肢が縛られていく形式だ。フィアレスの影響がまだ薄いGame 1ですら、赤側はフェーズ1の3BANのうち2つをアジールとオリアナに割かされて、選択肢が狭くなる。これがGame 2、Game 3と進むほどもっと苦しくなる。
だから赤側は、オリアナとアジールみたいな赤側必BAN枠をあえてスルーして握手を選ぶことがある。そうすれば赤側は呼吸ができるし、以降の赤側の試合も全部楽になる。T1はこのアジールとオリアナでそれをやった。両方通してHLEに握手を提示し、HLEも両方BANしないことでそれを受けた。
HLEが青1でアジールを取ったとき、T1は赤1-2でジェイスとヴァルスを出して長射程で返し、フェーズ1の赤3でオリアナを置いた。これがまたうまい。T1は握手を仕掛けた側だから、アジールを取られたとて想定どおり。長射程のジェイスとヴァルスでアジールの弱点を真正面から突ける。
でも俺がこのドラフトに満足した理由はそれだけじゃない。確かに長射程でアジールに強いのもある。でも、フェーズ1だけでジェイス、ヴァルス、オリアナの土台ができたのがデカい。フェーズ1の時点で、アジールとオリアナをこのシリーズの残りでフィアレスBAN扱いにできて、握手の片側を自分たちで確保して、アジールに長射程で答えを出して、さらに後半を組み立てやすい安定した骨格を持てる。そこにフェーズ2でアリスターとレネクトンという前線も足して完成度を上げた。
このマッチアップは、GumayusiとPeyzという元カノと今カノみたいな構図もあって、ボットレーンに視線が集まるのは避けられなかったと思う。シリーズ全体で見れば、T1とHLEの両ボットとも見せ場はあった。ただ俺が一番驚いたのは、T1のボットが新ADCのPeyz入りでも、ちゃんと勝ち筋を作れたことだ。
T1のボットに関してKeriaを疑う人はほぼいない。オフの配信でもKeriaについて質問されることはなかった。俺のKeria評価はみんな分かってるしね。みんなが気にしてたのはPeyzで、期待と不安が混ざってた。今回の大会でPeyzと新しいPeyz-Keriaのボットは、かなり色々見せてくれた。勝った試合だけじゃなく、負けた試合でも良いプレーがあった。
Game 1はT1のボットが一番光った試合で、Peyz-Keriaがスノーボールし始めたのが結果を決めた。ヴァルスとアリスターでボットに勝って、Doranのレネクトンもアンベッサを抑えた。
ついでにDoranの話もしておく。Doranは面白い選手だ。面白いのが本人の性質なのか、T1という面白いチームにいるからなのか、ニワトリと卵みたいな感じもする。
連戦が続くと、Doranが固くない瞬間がたまにある。柔らかいというか、沈む瞬間は確かにある。でもトップで普通に固く立って仕事をするときのDoranは、仕事の質が異常に高い。ああなったDoranを突破するのは難しい。チームのための強固な壁として機能してるときは、本当に崩れない。平均出力は高い。ただし、ところどころに不意の柔らかい箇所がある。変な合金だ。めちゃくちゃ硬い金属なのに、同時に粘土みたいに柔らかい部分も混ざってる。
韓国だと、選手をサイコロに例える言い方があるよな? Doranもそういう扱いをされがちだけど、俺はあまり合ってないと思う。サイコロ型ってのは、パフォーマンスが完全にランダムで、予測不能に上下する選手のことだ。1が2回出た直後に6が出る、みたいな。つまり不安定で、床が1で天井が6の間を行ったり来たりする選手。Doranはそこまでじゃない。基本は高水準で、平均も中央値も高い。
ここから先は用語の由来の説明だ。
サイコロ型の選手って言い方は、韓国LoL界だと2012年から2013年あたりにSsongを指して使われ始めた。SsongがまだNajin Swordのミッドだった頃で、調子がいい日は初期のFakerをソロキルしたりしてた。だからNajinが勝つかどうかは1のSsongか6のSsongが出るかで決まる、みたいに冗談にされてた。5のSsongならFakerがレーンで苦しみ、6のSsongなら相手が降参する、みたいな。あとでSsongがコーチになってからもこのネタは復活して、FLYやIMTやC9では1が多くて、DRXで6を引いた、みたいに言われたりした。
Ssongがコーチに転向した後、このサイコロネタは2015年あたりにMickeyに引き継がれた。Mickeyは突然めちゃくちゃ上手いかと思えば突然めちゃくちゃ悪い、みたいな上下が読めないタイプで、リーグ最高DPMなのにリーグ最低KDAみたいなことも起きてた。
サイコロ型は引退する2020年あたりまでMickeyの代名詞で、その後はBlankに引き継がれた。Blankが6を引けば世界一を取れるけど、1を引けばゴーレムやクルーグに処刑される、みたいなネタ。韓国視聴者はPerkzやJackeyLoveにもこの言葉を使っていて、最近は主にDoranを指して使われている。
ここまでで背景は十分だろ。Game 1の中身に戻る。HLEがアジール周りで何か起こせそうな瞬間は一応あった。でも大半の時間、T1がリードを取ってからはHLEの構成がマップ上で動けなかった。ジェイスとヴァルスに射程で押し返され、オリアナにもゾーニングされる。無理に前に出ようとしたら、レネクトンとアリスターの前線に止められる。
だからHLEは常に先に仕掛けないといけない側になって、焦って動く試合になった。とはいえ、レーン戦の展開が違えば全然別の世界線もあったと思う。アンベッサがレネクトンを押し込めて、序盤のボット事故が起きてなければ、T1の長射程ポークをある程度受け流して、マップでプレーを作れたかもしれない。
でも崩れ方が早すぎた。前に出たいのに、リードを持った長射程構成に対して角度を探さないといけない、という危険な立場に追い込まれた。あまりに早い段階で、無から有を作れという状況にされた。だからGame 1はああなった。
もう一つ。2026年にリフトがどう変わるかは分からないけど、レーンチャンピオンがジャングルに来る流れって、久々じゃないか。今回のKeSPAカップではエイトロックス、ジェイス、アンベッサみたいなのが見えた。もちろん最近のパッチだけが原因ってわけじゃない。サモナーズリフトの歴史の中で、レーン用がジャングルに転職する例は何度もあった。
これが起きると、だいたいレーンで満たさないとしんどい条件を、ジャングルに行くことでスキップできるから強い。例えばジェイス。トップで成立させるには、常にレーン主導権を取らないといけない。だから難しい。満たす条件が多いし、失敗要素も多い。でもジェイスがジャングルに行くと、そのチェックをかなり飛ばせる。やることはキャンプを回して育つことになる。トップでのゲームプランより安全に試合に参加できる。こういうポテンシャルが高いレーンチャンピオンが、ジャングルで本来の弱点をごまかせる条件が揃うと、今回みたいな光景になる。エイトロックスやアンベッサも同じだ。
ついでに、ジェイスジャングルはADニダリーみたい、って話にも触れておく。正直、ジェイスをADニダリーと呼ぶのは変なんだけど、言いたいことは分かる。俺は長射程ジャングラー枠としては、ジェイスの方がニダリーより上だと思ってる。ニダリーにも壁越えや回復役みたいな独自の強みはある。でもニダリーは性質的にソロキュー寄りで、ジェイスがジャングルで成立する状態なら、基本はジェイスの方が選択として強い。ニダリーが悪いというより、ジェイスのQEが攻撃性能で強すぎる。
まとめると、Game 1はT1がドラフトをめちゃくちゃ用意してきて、試合内でもちゃんと遂行した試合だった。HLEはリードを取った長射程のT1構成に角度を探して必死に仕掛け続けたけど、ほとんど通らなかった。
Game 2
- 構成:HLEはニダリー、カシオペア、ユナラ&ルルでレーンを強くして主導権を取り、その主導権を土台にジャングラーを攻撃的に動かす設計。T1はサイオンを置きつつ、ブリッツクランクでボットのプランをフック起点で壊せる構図。
- 試合展開:HLEは序盤にT1のジャングルで仕掛けたが、ボットの大きな当たりがT1側に転び、ニダリーもサイオンを想定ほど押せず、HLEが必要としていた主導権が作れなかった。
- 鍵:HLEはニダリートップという構成破壊を成立させるために先行リードが必須だったが、レーンの予定が崩れた時点で構成としての勝ち方が苦しくなった。加えてルル対ブリッツクランクは手勝負で、主導権を取り切れないと後半が厳しい。サポートBANを割きまくったのにKeriaが試合を割ったことが、HLE側の選択肢をさらに狭めた。
HLE(青)
BAN: バード、ニーコ、ポッピー / ルシアン、エズリアル
PICK: ユナラ / ウーコン、カシオペア / ニダリー、ルル
T1(赤)
BAN: ランブル、エイトロックス、タリヤ / レク=サイ、レル
PICK: シン・ジャオ、ライズ / サイオン / アフェリオス / ブリッツクランク
HLEはGame 1の教訓をちゃんと飲み込んだと思う。Game 2のドラフトはレーン戦へのオールインだった。放送でも言ったけど、理論上はニダリー、カシオペア、ユナラ-ルルの3レーンで、HLEが全部勝つか、最低でも2レーン勝つ展開があり得た。各レーンは順番に見る。
ボットはユナラ-ルル対アフェリオス-ブリッツクランク。理論上、ユナラ-ルルは普通にやれるし、主導権も取りやすい。ただし理論上という但し書きが付く。ルルみたいなユーティリティサポートは、ブリッツクランク相手でも勝ちやすい確率は高いけど確定じゃない。ブリッツが重要なフックを当てられないなら、ルル側がずっと押せる。でもブリッツがフックからのプレーをちゃんと繋げられる世界線だと、2対2の関係がひっくり返る。
トップのニダリー対サイオンは分かりやすい。基本はニダリーがサイオンを押す。どれくらい押せるかが問題で、不死者の握撃の発動が1回で済むか、5回取れるかみたいな差が出る。ミッドのカシオペア対ライズは、明確なカウンターというよりハンドスキルマッチアップ寄りで、コミュニティとしてもそういう合意があるはずだ。つまりドラフトだけ見れば、HLEはレーンを強くして序盤から押し込む形だった。でも実際にどうなるかは、各レーンをどれだけ上手く進めてどれだけ圧を出せるか次第だ。
この構成、HLEに合ってるのは分かる。3レーン全部で主導権を取って、その主導権を土台にKanaviみたいな攻撃的ジャングラーを走らせる。これはKanaviだからって話じゃない。
LoLには石碑に刻んでいいルールがいくつかあって、その一つがジャングラーは一人じゃジャングルできないってことだ。Kanaviだろうが、超越したジャングルの神だろうが関係ない。ニワトリと卵じゃない。先にレーナーがいて、後からジャングラーが動く。プッシュや主導権みたいなレーンの状況が、ジャングラーが何をするかを決める。どのキャンプを触るか、カウンタージャングルに行けるか、全部そうだ。
真に上手いジャングラーは単体でも上手い。でもその上手さと攻撃性が最大になるのは、レーナーが支えてくれるときだ。強いレーナーがいると、ジャングラーはもっと強くなる。だからこのGame 2のHLEはレーン重視だけど、結局はKanaviを通すための設計だった。実際Game 2はHLEがT1のジャングルで騒ぎを起こして、かなり攻めて始まった。
でもその後が想定どおりにいかなかった。ボットで大きな当たりがまたT1側に転び、ニダリーもDoranのサイオンを思ったほど押せなかった。こうなるとHLEの構成はT1の構成に対して戦えなくなる。構成対構成の世界で、HLEはニダリートップを抱えてるからだ。ADニダリートップは有名な構成破壊で、あれを取った瞬間、ドラフトを一つの構成としてまとめる強さが消える。
ニダリーやフィオラみたいな構成破壊ピックは確かに存在する。チームに勝ち方を強制するピックだ。5対5の構成同士の衝突じゃなくて、レーン単位の強さで押し切るルートに固定する。極端な例を出すならティーモがそれだ。ティーモをロックした時点で、残り4人がどれだけ綺麗に噛み合ってても、構成の話は別物になる。だから俺が言いたいのは、HLEのドラフトが正しいか間違いかじゃない。5対5で構成勝負をすると、構成破壊を抱えた側はどうしても不利になるって話だ。
この枠組みはルルみたいなユーティリティサポートにも当てはまる。Game 2はルル対ブリッツクランクだった。こういうマッチアップだと、ユーティリティ側はレーンで主導権を取り続けて、メレー側を押さえ込む必要がある。そこで主導権を取れずに五分にされると、後半の視界、セットアップ、プレーメイクで制約が一気に増える。
もちろんユーティリティサポートがダメって話じゃない。強みもあるし、基本はレーン戦の強さに寄る。ただ、プロで常にユーティリティが主流にならないのは、失敗した時の反動が大きすぎるからだ。伝統的なメレーサポートに比べてな。
それでもプロでユーティリティが出るときは、ブラウムやアリスターみたいな、レーンで押し返す手段が乏しい相手に当てることが多い。ルルが一方的に押せるからだ。でもブリッツみたいなフック系は少し違う。負けレーンでも、一本のフックからレーンを割れる可能性がある。
まとめると、HLEの構成は先にリードが必要だった。主導権じゃなく、重い主導権が必要だった。でもそうならなかった。結果、ニダリーみたいな構成破壊と、ユーティリティサポートの反動をそのまま食らう形になった。Game 2のレーン勝負プランが早い段階で崩れた時点で、勝負はほぼ決まっていた。
放送中に、俺がHLEの立場ならGame 3にどう行くかを考えるくだりがあった。ここまでで、多くの人がこのシリーズは一方的になると思ってたはずだ。最大の理由はT1のPeyz-Keria、特にKeriaだった。
見てた人なら全員気づいてたと思う。でもHLE側の視点で考えるともっと難しい。HLEはシリーズを通して、T1のボット、特にKeriaが問題になると予想してた。だからGame 1と2でKeriaにサポートBANを3枚入れて、Peyzにも最大2枚まで入れてた。
なのに、そこまで投資してもT1のボットが勝ち筋を作った。しかもバード、ニーコ、ポッピーという3BANを受けてるKeriaが、Game 1も2もPoGを取った。さっき言った固定BANの話を思い出してほしい。シリーズで特定のBANを強制されると、ピックBANの柔軟性が死ぬ。HLEはそれを分かってた。でもKeriaがそれだけ危険だから、青側でもバード、ニーコ、ポッピーに全振りして腹を括った。それでもKeriaがPoGでボットを破壊するなら、HLEは一体どうすりゃいいんだ。
だから俺はKeriaを破壊的とか圧倒的とか言う。別ロールなら、重いBAN戦略をかけるのもまだ分かる。でも相手はサポートだ。いいか、サポートなんだぞ? 本来は主役じゃない。支える役で、影響力には限界がある。でもKeriaはそれを壊す。サポートなのにシリーズで3BANを引き出して、その上でPoGで勝つ。理不尽だ。非対称戦だ。理屈で納得できないのに成立するのは、Keriaだからだ。
俺が揺り椅子歴史家モードに入るときも同じ話をする。KeriaはLCKのスーパースター系譜にいる。MadLifeがそのクラブの創設者で、サポートという制約を超えて初めてスーパースターになった選手だ。その後に同じことをやったのはKeriaだけだと思う。MadLifeとKeriaには、この点で多くの共通点がある。MadLifeと同じで、Keriaはいま唯一、ロールの限界を超えた存在だ。
Game 3
- 構成:Game 3は立場が逆で、五分の展開ならHLE側の方が発言力がある構成。一方T1は前線が薄い極端な構成で、小さな有利を精密に積み上げてスノーボールを最大化しないと成立しにくいタイプ。
- 試合展開:想定はT1がスノーボールを押し付け、HLEが耐える形になりそうだったが、実際は少数戦が連発して毎分のようにリードが入れ替わる展開に。KeSPAカップ特有の軽い構えと引き金の軽さが、巨人同士の殴り合いを加速させた。
- 鍵:HLEは序盤の入り自体は荒かったが、Game 1-2と違って途中でリードを握る瞬間があり、そこからKanaviとZekaが走り回って能動的にプレーを作り続けた。大会上位勢共通の強みとして、相手を殴り倒すための攻撃的セットアップと、リードを取った側の加速力が際立った。
HLE(青)
BAN: バード、ニーコ、ポッピー / カ・サンテ、アカリ
PICK: タリヤ / ヴァイ、レル / コーキ、レク=サイ
T1(赤)
BAN: ランブル、エイトロックス / ヨネ、ジグス、ミス・フォーチュン
PICK: アッシュ、パンテオン / レナータ・グラスク / アーリ / オーロラ
今日のシリーズを通して、俺はたしか何度もこう言ってた。最後に勝つのは、より安定した構成を組めたチームだって。Game 1の終わりにも、Game 2にも、Game 3にも、Game 4にも言ってたはずだ。Game 1では、HLEが構成上の不利を最後までひっくり返せなかった。ヴァルスとジェイスの長射程と、レネクトンとアリスターの安定した前線。Game 2では、そもそもレーンが全部予定どおりに進まず、HLEの構成が何も始まらなかった。どちらの試合も、最低でも五分になった瞬間に強い構成を持っていたT1が、そのまま上を取った。
それを踏まえて、Game 3の両チームのドラフトを見てみろ。今度は立場が逆だ。五分の展開になったときに、発言力があるのはHLEの方。しかもT1の構成はかなり極端で、前線がいない。小さな有利を細かい単位まで取り切って、スノーボールを精密に最大化しないといけない。
両陣営のアイデンティティがここまでハッキリしてるなら、多くの人はこう予想する。T1がひたすらスノーボールを押し付けようとして、HLEがそれを耐える展開。でも実際はまるで違った。犬の喧嘩が連発して、毎分のようにリードが入れ替わった。どっちも殴って殴られて、また殴る。
たぶんこのレベルのチーム同士が、こういう試合をするのはKeSPAカップだからだと思う。さっき言ったように、KeSPAカップの良さはレギュラーシーズンほど重く構えないこと。そのせいで引き金が軽くなって、結果としてGame 3みたいな犬の喧嘩が生まれる。視聴者側も追うのがキツいくらいで、HLEとT1という二つの巨人がずっと頭突きをしていた。
この大会でT1とHLEに共通していたことがある。いや、DKも混ぜていいな。今回のKeSPAカップで上まで来たチームは、みんな攻撃力が本当に高かった。自分の番になったときに相手をボコボコにするのが上手い。それはレーンだけじゃなくて、試合中のセットアップの組み方にも出てた。相手を殴り倒すための準備が、ちゃんと攻撃的だった。
HLEはGame 3の序盤も、Game 1や2とそこまで変わらなかった。レーンの入りは荒くて、最適とは言いづらい。ただしGame 3が違うのは、途中でHLEが実際にリードを握る瞬間があったことだ。Game 1と2は、レーン後にHLEが一度でも前に出た時間がほぼ無かった。でもGame 3で一度手綱を握ると、KanaviやZekaが走り回って、能動的にプレーを作り続けた。
T1側は、KeSPAカップでこういう姿になるのはそこまで驚きじゃないと思う。成功の核になってきたレーンに新しい選手が入っているのは事実だけど、T1は昔から試合中に攻めるチームだった。だから今回も似た匂いのプレースタイルになるのは不思議じゃない。
HLEは少し違う。俺はオフのレビューで、HLEの2026ロースターは前より攻撃寄りの戦車になるって言った。重装甲を少し脱いで、機動力と攻撃性能に寄せた感じだって。2025を思い出すと、あの年はオブジェクト周りでずっと戦うメタで、多くのチームが昔よりアグレッシブになった。ただその中でもHLEは、どちらかと言えば堅実で、バランス型の進め方をしていた。
ただ、これはHLEにとって強化なのか弱体化なのか、今の時点で断言できない。KeSPAカップのデータは量も質も軽すぎて、そんな結論を出すには足りない。それに、HLEみたいな超上位チームは、オフを挟んでも基本は強化でも弱体化でもないことが多い。抜けた超一流の穴に、別の超一流が入るからだ。超一流同士の違いは、みんなが思うほど単純じゃない。
HLEは新しい見た目になった、くらいでいい。新しい服が長期的に似合うかどうかはまだ早い。でも少なくともKeSPAカップで見えた範囲では、以前とは違う見た目だった。その最大の理由はKanaviだと思う人が多いはずだ。Kanaviは諸刃の剣でもある。試合を勝たせることもあれば、落とすこともある。でも勝たせる時は、相手を公開処刑みたいな形で壊す。前に出たKanaviと当たるのは、ジャングラーとして一番怖いタイプだと思う。
さっきKeriaの話でロールの制約という話をしたけど、ジャングルにも似たものがある。レーナーに比べると、ジャングルも影響力の天井が意外と低い。俺は昔から、Canyonがその制約を一番ぶち破りやすい選手だと言ってきた。キャリー寄りの独特なスタイルだからな。
サポートほど分かりやすくないから補足する。ジャングルはサポートより影響力が大きいのは事実だ。でも似ているのは、結果に直接的な影響を与えるのが難しいロールだという点だ。少なくとも、レーナーほど大きな振れ幅で試合を決めにいけるロールではない。
だからタイプは違うけど、KanaviはCanyonと似ていると思う。どっちも試合の勝敗に強く関与して、ロールの制約を越える形で目立てる選手だ。
Game 4
- 構成:T1はヤスオを軸に前提条件が多い極端寄りの構成。ただしティーモ級の意味不明な構成破壊ではなく、条件が揃えば刺さるポケットピックの範囲。対してHLEは全体がバランス良く、赤5のグウェンでグウェン、メル、ミス・フォーチュンの三枚キャリーにして安定度を上げた。
- 試合展開:試合は終始カオスで、犬の喧嘩が連発。リードを熱いジャガイモみたいに投げ合いながら進み、最後はHLEが取り切った。
- 鍵:Gumayusiのミス・フォーチュンがPoG。ヤスオとブラウムの飛び道具を止める壁が二枚あり、さらに動けないADCとしてランブルのイコライザーも受けるというミス・フォーチュン激不利の環境でも、殴り合いの連続を捌き切って勝敗を決めた。
T1(青)
BAN: ヨネ、ルシアン、トランドル / アカリ、カ・サンテ
PICK: ランブル / ブラウム、エズリアル / ヤスオ、サイラス
HLE(赤)
BAN: バード、ニーコ、エイトロックス / ノクターン、リー・シン
PICK: ジャーヴァンⅣ、ミス・フォーチュン / ノーチラス / メル / グウェン
さっき言った安定した構成が勝つという話はGame 4にも当てはまる。ドラフトを見ると、T1はHLEに比べて極端な構成を引いた。極端さの大部分はヤスオに集約される。とはいえ、ヤスオの極端さはティーモみたいな次元とは別だ。ティーモは構成破壊の枠を越えてる。一方でヤスオやフィオラ、ニダリートップは、サプライズのポケットピックとして成立し得る範囲には収まっている。
つまりT1のGame 4構成は、成功するための前提条件が多いという意味で極端だった。でも適当にインティングしてるドラフトではない。条件が揃って自分たちの都合で戦えたら、普通に恐ろしい構成になり得た。ただ、HLEの構成の方が圧倒的にバランスが良かった。
HLEが赤5でグウェンを取ったのは、構成バランスの観点でめちゃくちゃ適切だった。ここでグウェンの代わりに、もっと分厚いタンクを取った世界線を想像してみろ。タンクを入れると、メルとミス・フォーチュンに卵を寄せすぎることになる。しかも、そのタンクがT1の構成相手に、メルやミス・フォーチュンを綺麗に守れるとも限らない。タンクではなくグウェンにしたことで、HLEはグウェン、メル、ミス・フォーチュンの三枚キャリー構成になって、全体がよりバランス良くなった。
試合そのものも相変わらずカオスだった。犬の喧嘩の直後にまた犬の喧嘩。リードは熱いジャガイモみたいに投げ合われて、最後にHLEが勝った。
Gumayusiのミス・フォーチュンがこの試合のPoGだったけど、あれは文句なしに妥当だと思う。Game 4は、ミス・フォーチュンにとってめちゃくちゃやりにくい環境だったのに、あそこまでやった。ヤスオとブラウムの飛び道具を止める壁が二枚ある上に、足が止まるADCとしてランブルのイコライザーまで相手にしないといけない。その全部を抱えながら、あの終わりのない殴り合いを捌いた。あれは本来、活躍していいはずがない試合で活躍したミス・フォーチュンだった。
Game 5
- 構成:T1はシェン+ノクターンというフィアレス終盤のシグネチャー寄りピックを土台に、ビクター+ゼリ+ユーミの高価値コアが育つ時間を買う設計。シェンとノクターンはパラノイア+瞬身護法+タウントの相性も良く、マクロ面でも自由度が出る。HLEはルシアン+ナミ、カミール、カサディン、ドクター・ムンドで価値寄りにまとめたが、成立にはレーンが大崩れしない前提が要る。
- 試合展開:Game 3-4の殴り合いから一転して、Game 5は序盤の小競り合いがミッドとボットでT1側に転び、トップもシェンがカミールを受け止めて前に出やすい形になった。その時点で三レーン主導権が揃い、Onerのノクターンが好き放題できる試合状況に入って一方的になった。
- 鍵:HLEはカサディンがビクター相手に想定以上に沈み、ボットも後ろに回り、ドクター・ムンドが主導権のない状態で放り出されたことで、試合を反転させる手段がほぼ消えた。そこに勝ち試合をたたむ力が高いシェンが重なり、ピックやスーパープレーでの逆転が難しくなった。フィアレス終盤で練度が落ちやすい中、T1がシグネチャー寄りの駒を自信を持って切れたことが差になった。
T1(青)
BAN: ヨネ、アカリ、ガリオ / ジャックス、ツイステッド・フェイト
PICK: ノクターン / ゼリ、ビクター / シェン、ユーミ
HLE(赤)
BAN: バード、ニーコ、エイトロックス / トランドル、カ・サンテ
PICK: ルシアン、ナミ / ドクター・ムンド / カミール / カサディン
なあ、俺が何て言ってきたか覚えてるか。レギュラーシーズンでも、世界大会でも、ずっと声に出して言ってきた。
シェンは普通に出せるって。
毎回、コメント欄では、30代後半のLP300マスターがコピウム吸いすぎてるだけだろって言われたけどな。もちろん悪意がないのは分かってる。でも俺は冗談でも適当でもなく、シェンは十分アリだと言ってた。引退してから名誉トップ転向みたいなことをして、今でもシェンをガッツリ回してる身としてな。
これはシェンに限らないけど、フィアレスドラフトでは、選手が自分だけのシグネチャーピックを持ってるのはめちゃくちゃ価値が高い。
Doranのグラガスみたいなやつだ。俺は今年この話を何度もした。プロであること、チームであることは、常に不足との戦いだ。特に時間が足りない。フィアレスが入ってから、同じ限られた時間で、以前より多くのチャンピオンを練習しないといけなくなった。だから最後の方のフィアレスで出てくるポケットピック、例えばシェンみたいなのは、どうしても練度が落ちる。
だからこそシグネチャーピックが強い。自分だけの一枚を、Game 1や2のメタピックと同じ水準で出せる。そういう意味で、T1がGame 5でシェンを出したのはかなり大胆だ。シェン自体が弱いとかじゃない。でもグランドファイナルの決着戦で、しかもGame 5で、練度が落ちやすいピックを引っ張り出す決断をしたという意味で大胆だ。
このGame 5はもっと注目されてもよかったと思う。シェンだけじゃなくて、ゼリとユーミ、ルシアンとナミの懐かしい組み合わせまで出た。でも多分、Game 5があまりにも一方的だったから、T1ファンもHLEファンもまだショックが抜けてない。Game 3と4があんなに殴り合ってたのに、最後だけ別競技みたいになった。最終ラウンドまで互角に殴り合ってたのに、ゴングが鳴った瞬間に片方が急に飛びかかって、一方的に叩き続けたみたいな試合だった。
一番の疑問はこれだと思う。なんでGame 5はあそこまで一方的だったのか。何が問題だったのか。答えてみる。まずはドラフト視点から入る。T1のシェン、ノクターン、ビクター、ゼリ、ユーミの構成は、単体でも普通に良い。俺ももう同じ話を繰り返してる気がするけど、付き合ってくれ。フィアレスのシリーズでは全部は出せない。ティア上位のメタチャンピオンは公共財みたいなもので、両陣営が拾い合う。だからシリーズ後半にいくほど、自分だけのシグネチャーがあるかどうかがデカい。
T1はこの強みを使うのが上手い。ポケットピックの引き出しが多い。Onerのノクターンもその一つで、フィアレス導入後、何度もT1を助けてきた。ノクターンってメタ寄りに見えるから、ポケットやジョーカー扱いされないこともある。ボタン一つで勝つ5歳児チャンプみたいなイメージがあるからな。
でも面白いことに、ノクターンが上手い選手は実はそんなに多くない。あの評判のわりに。ノクターンについては、俺の言うことを信じていい。昔、CJで俺たちが最初にプロ向けノクターンを詰めて、プロプレイ用ノクターン講座の初版みたいなものを作った側だからな。それにノクターンは、押すだけのRチャンピオンだからこそ難しい。パワーの大半がパラノイアに割り振られてる。Rを押す判断でミスったら終わりだ。マルファイトのアンストッパブル・フォースも同じで、押すタイミングが全てになる。
2025はADジャングラーがずっと主流だった。その中でOnerがノクターンを高水準で使えるのは、T1にとってめちゃくちゃ大きかった。攻撃寄りのスタイルと相性が良いし、Oner本人の完成度も高い。フィアレスのGame 5で、そのノクターンに加えて、さらにシェンまで乗ってくる。相手からすると相当イヤだ。
今ちょっとだけ揺り椅子モードを許してくれ。シェンとノクターンだからな。俺が現役で舞台に立ってた頃を知らない人も多いだろうし、これから言うことは信じられないかもしれない。でも自信を持って言う。ステージでノクターンとシェンをちゃんと機能させた最初の選手は俺だった。だからこの二体について語る権利はあると思ってる。
シェンとノクターンはフィアレスのポケットという意味でも強い。でもそれだけじゃなく、二体の相性が異常に良い。パラノイアと瞬身護法とタウントの組み合わせは言うまでもない。サイドレーンやオブジェクト管理のマクロ自由度も大きい。試合の中でT1はそこをかなり上手く使った。シェンメインとノクターンメインは、たぶんニヤニヤしながら見てたと思う。
さらにT1全体の構成としても見てみよう。シェンとノクターンに加えて、ミッドにビクター、ボットにゼリとユーミ。ビクターもゼリとユーミも、単体で見ると観客がうわって顔をする系のレーンだと思う。価値が高いのは分かるけど、特定の試合状況では無力になりやすい。だけどトップジャングルがシェンとノクターンなら、その生の強さで時間を買って、ビクターとゼリとユーミの成長曲線を綺麗に右肩上がりにできる。T1としてはかなり筋が通っていた。ビクターとゼリが育つまでの時間が必要で、そのためにシェンとノクターンを置くのは良い設計だ。
HLEはカミール、ドクター・ムンド、カサディン、ルシアン、ナミを組んだ。これも別に悪いドラフトではない。T1がシェンとノクターンでビクターとゼリの終盤に繋ぐ構成なら、HLEもバランスが良くて価値が高い要素をちゃんと揃えている。Game 1から4までの安定した構成が勝つという感覚が、両チームに共有されていたようにも見える。極端さを避けて、セーフで価値寄りの構成に寄せた。
ただし、それはドラフトの話だ。いつも言うけど、ドラフトの重要性が、試合内のプレーを上回ることはない。じゃあGame 5で実際に何が起きて、一方的になったのか。試合は序盤から、ミッドとボットの小競り合いがT1側に大きく転んだ。さらにトップでも、カミールがシェンを割るのは簡単じゃない。あのマッチアップはそういうものだ。むしろ序盤から中盤は、シェンがカミールを押し付けやすい。シェンが普通にカミールを受け止めていて、ミッドとボットもT1が勝っている。そうなるとドクター・ムンド株、ファンがムンビディアと呼び始めたアレは、一気に暴落する。
チャンピオン相性も、ドラフトと試合内の関係に似ている。コミュニティは有利不利を数値化したがるけど、結局は誰がそのチャンピオンを持って、どういう試合の進み方になるかで変わる。だからこのレーンはこうなると断言できる人はいない。せいぜい確率の話だ。
例えばゼリとユーミ対ルシアンとナミ。長年出続けた組み合わせだから、俺もこのレーンが本当はどう転ぶのか、ずっと考えてきた。選手やコーチに何度も相談して、俺の結論はこれだ。ゼリとユーミ対ルシアンとナミの結果は、ほぼ試合内のプレーで決まる。比較としてビクター対カサディンを考えると、理論上はビクターが序盤の1対1でカサディンを押せる。でもジャングル介入が入れば、いくらでも緩和されるし、ひっくり返ることもある。変数が多すぎて、いつもこうなると言い切れない。
Game 5でHLEが詰んだのは、カサディンが悲惨なスタートを引いて、元々苦しい想定のビクター相手に、さらに深く沈んだことだ。ボットもジャングル介入込みでT1が先に出て、トップはシェンがカミールに気持ちよく立てている。こうなるとOnerのノクターンは好き放題できる。
HLEにとっては、Kanaviとドクター・ムンドにとって最悪の試合状況だ。ドクター・ムンドの強みは、最低でも五分の試合状況で、ひたすら圧をかけられること。チームが後ろにいなければ、ムンドはムンドの時間を始められる。でも後ろに回ったムンドは、本当に無力になる。
韓国ではガレンやムンドみたいに機動力もプレーメイクもないチャンピオンを、アホチャンプと呼ぶだろ。ミッドとボットが主導権を失っている状況で、ムンドにできることは何もない。トップもカミールに対してシェンが元々有利寄りで、しかもレベル6以降は瞬身護法まである。
こういう試合状況でムンドができるのは、中級AIみたいにキャンプを回り続けることだけだ。本当にそれしかできない。レーンに刺さるガンクも難しいし、そもそも無理やり起点を作るキットがない。集団戦で上手いプレーから状況を反転させることもできない。プレーメイク要素がゼロだからだ。だから後ろにいない試合状況では強い。逆に後ろにいると一気に使い物にならない。Game 5は完全に後者だった。
チャット: ああ、やる気だ
チャット: シェン講義はやめてくれ
チャット: シェン使いなんて存在しない。妄想だ。頼むからやめろ
いや、シェンには語る枠が必要だろ。俺がシェン好きだからってだけじゃない。Doranのシェンが良かったのを、ちゃんと評価しないといけない。
シェンの最大の強み、そして存在意義は、勝っている状況から試合をたたむ力が高いことだ。勝っている側にシェンがいると、試合状況を相手にひっくり返されるのが本当に難しい。状況が反転する典型はピックとスーパープレーだけど、シェンの瞬身護法はそれをかなり防ぐ。勝っている側のスノーボールを転がし続けられるだけじゃなく、瞬身護法とテレポートによるサイド運用とマクロで、さらにリードを広げられる。
これを今の話に当てはめる。Game 5は、ミッドとボットでT1が先に出て、三レーン主導権がOnerのノクターンが暴れる土台になった。一方HLEは、序盤で沈んだカサディン、シェン相手に苦しいカミール、ゼリとユーミ相手に後ろに回ったルシアンとナミ、主導権がない状態で放り出されたドクター・ムンド。HLEは負けている状況を自力で反転できる道具が少なかった。それだけじゃなく、シェンがいるせいで反転がほぼ不可能に近かった。シェンはクローザーだ。
HLEはピックバンの時点では、ここまでレーンが崩れるとは思ってなかったはずだ。ここから少し、フィアレス導入後のBo5でよく見る問題にも触れる。フィアレスのGame 4や5で出るのが、チャンピオン練度の問題だ。あるチャンピオンを取る時点では、このマッチアップならいけると思っているのに、実戦だと無理になる。HLEのカサディンとカミールも、そういう類だったと思う。本人たちは、もっとマシに進む想定で取っていたはずだ。
だからフィアレスは、選手目線だと残酷な方式になる。練度の問題と言ったけど、俺は基本的に選手の責任だとは思わない。時間が足りないのは構造の問題だ。しかも世界最高峰レベルでのプレーを求められている。だからこそ、シリーズ後半にシグネチャーピックを持っているのは本当に強い。自信を持って頼れる一枚があるのは、練度が低いものや、確信が持てないものを無理やりやらされるよりずっといい。
カサディンが議論の中心になっている理由も分かる。後から見れば、HLEは序盤に使えるミッドを取るべきだったんじゃないか、と言える。でも俺は、HLEのカサディンのロジック自体は間違いだと思わない。ドラフト中の会話が、カサディン、Zekaならビクター相手にそこそこレーンできる、というノリだったとしても、不自然じゃない。
チャット: HLEはKeriaに2BANも必要で、ドラフトがそもそも厳しすぎた
その通り。めちゃくちゃ良い指摘だ。HLEが立たされていたドラフトの立場は、相当きつくて窮屈だった。本来、サポートに2枚も3枚もBANを投資するのは、普通のLoLじゃない。でもKeriaがサポートなのに、構造として巨大な非対称を作ってしまうから、そうせざるを得なかった。だから、HLEはミッドをもっと早く取るべきだった、という話より、シリーズの早い段階でKeriaのサポートをもっと解放していくべきだった、という見方の方が筋が良いと思う。
最初の一歩が一番難しい。だからこそ、高リスクの場面で最初に踏み出す人は開拓者として讃えられる。T1とDoranは今日それをやった。HLE相手のグランドファイナル、Game 5でシェンを出した。シェン族にとって巨大な第一歩が踏まれた以上、他のチームも後に続くと思う。
これは、無理やりシェンを持ち上げるための話じゃない。俺がシェン贔屓で、自分の最高練度チャンピオンをプロが使えと喚いてるわけでもない。フィアレスの最終盤で、チームや選手が極端な選択を迫られる世界なら、シェンは居場所がある。2025でも、シェンが普通に出せるどころか、かなり良いピックになり得る状況が何度もあった。
シェン最大の問題は、誰も使わないことだ。プロもカジュアルも。弱いから、限られた練習時間を突っ込む価値がないと思われている。でもシェンの弁護をすると、シェンは実は練習量がそこまで必要なチャンピオンじゃない。プロでも。練度で天井が伸びるタイプではなく、少ない投資でも一定の効果を出しやすい。
チャット: 次はイラオイも売り込み始めるのか?
たしかに、俺は半分トップレーナーになってからイラオイも持ちネタにしているし、配信で布教したこともある。でもイラオイは条件がいる。最重要なのは、相手に近接チャンピオンが最低でも3体いる試合だ。
ただ、この条件が必要という話は、イラオイだけじゃなく、LoLにいる170体以上の全チャンピオンに当てはまる。今日のGame 5のシェンだって、条件が揃ったから取られた。説明する。シェンもイラオイも、非メタとか変わり種のチャンピオンは、共通して前提条件が多い。
これが、プロでメタ扱いされるかどうかの最大の分岐になる。強い、主流だと評価されるチャンピオンは、条件が少なくて、どんなドラフトでも青1みたいに先に取れる。先出しして、さあどうする、と言える。逆にシェンやイラオイはそれができない。相手のレーン相手が見えてから取る必要がある。Game 5もそうだった。HLEがトップにカミールを見せたから、シェンが取れた。まず第一条件、近接トップへのカウンターとして出せる、が満たされた。
でもシェンの要求はそれで終わらない。シェンはチームに主役タイプが必要で、スケールが高いキャリーがいる方が良い。さらに加点要素として、瞬身護法を活かせる構成シナジーも欲しい。T1はフェーズ1の時点で条件を全部満たしていた。ビクターとゼリという高価値のキャリーラインがあって、ノクターンとも瞬身護法の相性がいい。
だからLoLは自由度が高いサンドボックスゲームなのに、プロでは一部のチャンピオンに偏る。理論上はどのレーンでも大抵のチャンピオンを出せる。でも各チャンピオンには成功するための要求リストがあり、その長さが違う。要求が短いほど、プロで主流になりやすい。
これがプロメタのティア分けにも繋がる。先出ししても問題が起きにくいチャンピオンは上のティア。そこから下にいくほど、要求条件が一つ二つと増えていく。だからGame 1や2の序盤環境では上のティアが出やすく、後ろのGame 4や5にいくほど、要求が多いチャンピオンが出てくる。要求ゼロや1から2の駒を使い切ってから、3や4、5や6と要求が重い駒を検討することになる。
勘違いしないでほしい。俺はシェンがメタだと言っているわけじゃない。来季いきなりシェンだらけになるとも思ってない。ただ、シェンが求める条件と、持ってくる価値を考えると、フィアレスの終盤では武器になり得る。これまでプロでシェンが出た場面の多くは、そもそも出すべき状況じゃなかったか、使い手の練度が足りなかった。だからこそ、ちゃんとした状況で出て、しかもT1とDoranが良い形で使い切ったのが良かった。
同じ要求リストの考え方は、カサディンにも当てはまる。ビクターが遅い、重い、リアクション取るだけの辞書的ミッドの寄生虫だ、みたいな言い方はコミュニティの定番ネタだ。でもそれは相対の話だ。カサディン相手だと、ビクターがむしろ能動側になる。だからカサディンは高ティアのメタ扱いになりにくい。序盤が無力すぎる問題が、ビクターより何倍もキツいからだ。
カサディンの本質は、レベル6からようやくゲームが始まることだろ。条件としては小さく見えるけど、プロでレベル6まで待つのは、とてつもないハンデだ。だから俺はずっとカサディンに否定的だ。要求が多い上に、その要求が重い。ビクターはビクターで癖はあるが、1対1のレーンには明確な強みがある。
終わりに
これでアタカンに別れを告げる。少なくとも韓国製のアタカンに関しては、これが最後だ。T1は組織史上初めてKeSPAカップ優勝を達成し、つまりFakerがKeSPAカップのトロフィーを掲げるのもこれが初めてだ。
さらにT1の新戦力Peyzが、今日の決勝のMVPを獲得した。これは完全に妥当だと思う。シリーズのMVP投票の細かい内訳は見られなかったけど、俺は最初からT1のボットから出ると確信していた。PeyzかKeriaのどちらか。そして新しい旅の出発点で、Peyzがあれを取ったのはかなり良い。T1でのスタートを、これ以上ないくらい高い位置で切った。
LCKと大会全体について言うなら、ここからが始まりだ。KeSPAカップ途中にやった2026ロースターレビューで言ったことは、今も全部そのまま当てはまる。KeSPAカップ3日目以降に起きたことは、俺の各ロースター評価を変えなかった。2026も長いシーズンになる。各チームが長期戦の中で、良いものをたくさん見せてくれることを願っている。
面白すぎるでござる。
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