はじめに
皆さんはじめまして。Qooと申します。
現在、Crest Gaming Actでコーチを務めております。
今回、LoL忍者さんからお話をいただきまして、プロチームのドラフトの考え方をご紹介させていただく運びとなりました。
私はプロ生活をはじめて5年ほどになりますが、ドラフトは非常に奥深いものであり、いまだに勉強不足を痛感する日々です。
まだまだ修行中の身ではありますが、私が学んできたことを皆さんに共有することで、少しでもプロシーンを楽しむお手伝いができれば嬉しく思います。
それでは、よろしくお願いいたします!
OPトレード
OPトレードは、そのメタにおけるOPチャンピオンの数をカウントし、相手に何を渡し、こちらは何を取るかという駆け引きのことを指します。
LoLというゲームには、そのパッチごとに飛び抜けて強い、OP(Over Powered)と呼ばれるチャンピオンが数体存在します。よって、ドラフトで「相手と同数以上のOPチャンピオンを確保する」ことが非常に重要になります。
そのパッチでOPチャンピオンが3体以上(ロール被りなし)存在する場合、ブルーサイドは3つのバン枠を上手く使用して、ピックできるOPチャンピオンの数を減らします。そして、お互いにOPチャンピオンを1体ずつ、またはブルーサイドのみOPチャンピオンを1体ピックして相手には1体も取らせないという状況を作ることが可能です。
また、そのパッチでOPチャンピオンが3体(うち2体が同じロール)の場合は、ブルーサイドはOPチャンピオンをバンする必要がありません。ただし、レッドサイドはそのうち1体をバンしないとブルーサイドに取られてしまいます。レッドサイドは強制的にバン枠を使わされる不利なドラフトになります。
OPトレードのケーススタディその1:FNC 対 T1
具体例を一緒に見てみましょう。
Worlds2022のFNC対T1のドラフトです。
このパッチにおけるOPチャンピオンは、次の4体でした。
- ケイトリン(ADC)
- エイトロックス(トップ)
- マオカイ(トップ/ジャングル)
- ユーミ(サポート)
ご覧のように、この4体のOPチャンピオンはロールが重複していません。
こちらを念頭に置き、ドラフトの流れを追ってみましょう。
このドラフトはOPチャンピオンの削り合いから始まります。
まず、ブルーサイドはファーストバンでケイトリンをバンします。
これでOPチャンピオンが一体いなくなりました。
続いてレッドサイドは、マオカイをバンします。
これでOPチャンピオンが二体いなくなりました。
残っているのは、エイトロックスとユーミです。
今度は、ブルーサイドはOPチャンピオンではなくフィオラをバンしました。
それに対し、レッドサイドはセジュアニをバンしました。
これは、ブルーサイドがエイトロックスのカウンターであるフィオラをバンしたことによって、「ブルーサイドはエイトロックスを取りたいのではないか?」と読み、エイトロックスと一緒に運用されると厄介なセジュアニをバンしたと考えられます。メレーチャンピオンであるエイトロックスは、セジュアニの「E – 永久凍土」を発動しやすいというシナジーがあるからです。
そしてブルーサイドはOPチャンピオンではないルブランをバンします。
ここでレッドサイドは選択を迫られます。
この時点で残っているOPチャンピオンは、エイトロックスとユーミの2体。
ファーストバンフェーズの残りバン枠は1つだけなので、エイトロックスとユーミのうち一体はブルーサイドに渡さざるを得なくなります。
そしてレッドサイドの結論は、ユーミをバンして、エイトロックスを渡すというものでした。
当時のユーミの厄介なところは、カウンターが存在しないことでした。
ユーミをブルーサイドに取られてしまうと、ボットのレーン戦が極端に苦しくなってしまいます。
そこで、エイトロックスというOPチャンピオンを1体渡して、アカリとアフェリオスという、OPではないがAティアのチャンピオンを2体取るという選択をしました。
セジュアニをバンすることでエイトロックスのパワーをできるだけ抑える努力をしていたことも見逃せません。
OPトレードのケーススタディその2:G2 対 T1
次のケーススタディは、MSI2022のG2対T1のドラフトです。
当時のOPチャンピオンは、以下の3体でした。
- ルシアン(ADC)
- アーリ(ミッド)
- ルブラン(ミッド)
ご覧のように、この3体のOPチャンピオンはアーリとルブランがミッドでロールが重複しています。
こちらを念頭に置き、ドラフトの流れを追ってみましょう。
まず、ブルーサイドはOPではないノクターンをバンします。
続くレッドサイドは、OPチャンピオンであるルシアンをバンします。
このパッチ当時のルシアンは手がつけられないほどOPで、ここでバンして置かないと確実にブルーサイドに取られてしまいます。ですから、レッドサイドは必ずバン枠をOPチャンピオンを減らすことに使わなくてはならないのです。
残るOPチャンピオンはアーリとルブランです。
ただし、アーリとルブランはどちらもミッドレーンで運用されるチャンピオンです。
ロールが重複していますから、2体とも取ることはできません。
結果として、残る2体のOPチャンピオンをブルーサイドとレッドサイドで分け合う流れになります。
この時、先にOPチャンピオンを選択できるのはブルーサイドです。
アーリとルブランのうち、好きな方を選択できるというアドバンテージを得ます。レッドサイドはOPチャンピオンを1体取れるものの、余ったほうを取らされるという不利な状況になります。
このように、ドラフト開始直後でも綿密な計画に基づく駆け引きが行われています。
また、OPチャンピオンを無事確保できたからと言って、安心はできません。
-
取れたOPチャンピオンに対するカウンターチャンピオンは残っているか?
- そのカウンターチャンピオンは序盤の主導権を取れるチャンピオンか?
- そのカウンターチャンピオンは、相手チームにマッチしているか?
このように、さまざまな要素を考慮する必要があります。OPチャンピオンが取れたからといって、一切気は抜けないのです。
コンビネーションピック
コンビネーションピックとは、一緒に運用すると強い特定の組み合わせを揃えてピックすることを指します。
近年、ボットレーンではADCとサポートをセットで揃えるとより強力になるチャンピオンが多く存在します。
代表例をいくつか挙げてみましょう。
ルシアン&ナミ
非常に有名なコンビネーションピックです。ナミの「E – 潮使いの祝福」とルシアンのパッシブ「P – 二挺拳銃」がとても良く噛み合い、ルシアンの長所のひとつであるバースト力をさらに高めることが可能です。Worlds2022でも登場シーンが多かったコンビネーションピックです。
ジンクス or アフェリオス & スレッシュ
ジンクスとアフェリオスの共通点は、うまく育つことができれば圧倒的な火力を出せる反面、機動力に欠けているので一度捕まってしまうと逃げることがほぼ不可能なことです。
スレッシュは、そんな弱点を補えるサポートです。Wのランタンで窮地に陥ったADCを救うことができます。
また、この2体のADCはスレッシュのQに合わせやすいスキルを持っています。
ジンクスはスレッシュのQが当たったのを見てから、ほぼ確定で「E – パックンチョッパー」を当てることが可能です。
アフェリオスはグラヴィタムのスネアで、スレッシュのQをほぼ確実に当てる状況を作ることが可能です。
アフェリオスのグラヴィタムは早く使い切ろうと回されることも多いのですが、スレッシュが相方の場合は別です。インファーナムと合わせたAoEスネア、キャリブラムと合わせた長射程スネア、ゲイルフォースのブリンクインからのスネアなど、上手なアフェリオスプレイヤーはスレッシュとのシナジーを活かす戦い方をします。
カイ=サ & ノーチラス
プロシーンでピックされるフック系チャンピオンの代表格は、ノーチラスとスレッシュです。ちなみに、ブリッツクランクはフックを外してしまうとほとんどできることがないため、プロシーンではあまりピックされません。
では、なぜカイ=サの相方としてノーチラスが好まれるのでしょうか。
理由はいくつかあります。
まず、カイ=サには射程が短いという弱点があります。そのため、できるだけカイ=サの近くに敵を引っ張ってくれるサポートと一緒に戦いたいところです。
ノーチラスとスレッシュを比較すると、ノーチラスのほうが引き寄せる距離が若干長いという特徴があります。
第二に、ノーチラスはカイ=サのパッシブのひとつであるプラズマスタックを溜めやすいということが挙げられます。カイ=サのバースト力を支えるのは、プラズマスタックです。これはカイ=サ自身のAAか、周囲の味方が移動不能CCを当てることによって蓄積することができ、4つ蓄積してからAAを当てると減少HPに応じたバーストダメージを出すことができます。
ノーチラスはAAのスネア、Qの引き寄せ、ウルトの対象指定ノックアップと、移動不能CCが揃っています。そのためプラズマスタックを蓄積しやすく、カイ=サと相性がよいのです。
関連して、CCが豊富なノーチラスは敵を長時間同じ場所にとどめやすく、カイ=サがダメージを出せる時間を稼ぎやすいということも見逃せないポイントと言えるでしょう。
カリスタ & アムム
このコンビネーションの最大の特徴は、アムムの弱点を消し、長所だけを光らせることができる点です。
アムムはQで敵陣に突っ込んでウルトでAoEスタンを与えられる、集団戦が非常に得意なチャンピオンです。反面、突っ込んでから自陣に帰るスキルを持たないため、デスが確定することも多いです。カリスタのウルトはそんな悲しいアムムを救うことができるのです。
また、このコンビネーションはレベル1ファイトが最強クラスです。
アムムのQとグレイシャルオーグメントの組み合わせは強烈で、しかもQは2つまでスタックできます。一度当たってしまうとグレイシャルオーグメントのスローフィールドと相まって、ほとんど動けなくなります。さらにはグレイシャルオーグメントの効果でAAの威力も下げられてしまうので、もともとバースト力の強いカリスタに勝つことはほぼ不可能です。
ケイトリン & ラックス
ラックスのQに当たってしまうと、ケイトリンのWが確定で決まることが知られています。序盤でラックスのQに当たることはほとんど死を意味します。
このコンビネーションはガンクに弱いという明確な弱点がありますが、そこを支えるのが両チャンピオンの視界の取りやすさです。ラックスのEはブッシュの視界を取ることができます。また、ケイトリンのWも置いた瞬間だけ視界を取ることができます。
ラックスの代わりにモルガナという候補もありますが、ラックスの方がバースト力に優れます。そもそもこのコンビネーションピックはレーンで圧倒することを狙っているので、ラックスのほうが好まれます。もちろんセーフティーなレーン運営を狙うならモルガナもありでしょう。
エズリアル & カルマ
このコンビネーションの強みはポーク力に優れていることです。
また、エズリアルはそのイメージに反して、Qが当たる環境ならインファイトに強いという特徴があります。Qを当てるとアタックスピードが上昇するため、殴り合いに強いのです。
カルマのマントラQのスロウ効果は見た目以上に重く、エズリアルのQを当てやすい環境を作ることができます。また、マントラQは当たった直後とその後の爆発で二段階にダメージが分かれているため、爆発から逃げるか、エズリアルのQに当たるかという二択を相手に迫ることができます。
さらに、エズリアルの弱みであるプッシュの遅さをカルマはカバーすることができるのです。
これらのチャンピオンはコンビネーションピックとして好まれます。
反面、コンビネーションでなければ十分にパワーが発揮できないとも言えます。
このドラフトの面白いところは、ブルーサイドにもレッドサイドにも主導権があることです。
1~3ピックで取るのがストレートな手法ですが、バンされたチャンピオンを確認してボットレーンのピックを後回しにすることも可能です。ブルーサイドがファーストピックでボットレーン以外をピックしたのを見て、レッドサイドがコンビネーションピックを取って揺さぶることもできます。
ADCとサポートを分けてピックするなら、そのリスクに見合う強力なピックを用意する必要があります。そうでなければボットレーンの選択肢が消されやすく、理想とする構成が組めなくなる場合もあるのです。
この手法はボットレーンのプールが狭い相手などに仕掛けていく際に有用です。
次回は、カウンター封じとフレックスピックについてお話いたします!
乞うご期待でござる。
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コメント
ミーはOPな猫なんだ
モテる猫は困っちゃうニャ
ケース1って
セジュアニバンじゃなくてエイトロユーミバンとか、
セジュアニバンでエイトロユーミオープンで
エイトロorユーミandアカリorアフェリオスとか
なんかもっといい手ありそうだけど
観戦しかしない素人意見で申し訳ないのですが、ユーミはケース2のルシアンに近いレベルに壊れてたのでユーミを開ける選択肢はないかなと思います。
エイトロを開けるメリットはFNCのTOPが確定する事とT1のTOPがZeusだったのも大きいかなと思います。Zeusがカウンターできるチャンプが取れるなら彼の力量差込みでエイトロのチャンピオン性能を許容できると判断したのだと思います。
もっといい手はたくさんあるのですがこの試合がday2でメタが完成していなかったことを考えると仕方ないの範疇なのかなと思います。
ケース1の時にセジュアニではなくそもそものエイトロBANはダメなんですか?
どなたか教えてください
レッド側でOPチャンプ残り2体の状態(ユーミ・エイトロ)で2手目でエイトロをBANすると、更に3手目のBANまでユーミで確定してしまうから、事実上ラストBAN枠をブルーに渡してしまうっていうことになるからそれを避けたとかじゃないかな?
実際のところは分からないけど
青側1枠フリーBAN > セジュアニのいないエイトロックス という評価だったのかな
T1からするとセジュアニなしのエイトロックスが出てくることを予想できることの方がドラフト戦略組みやすかったのかもね
正しい評価だったのかもわからんけど、実際いくら事前に準備しているとはいえ、あの少ない時間で正しい判断を下すのめちゃくちゃ難しいだろうなあ
TOPのピックがほぼ見えてたからエンゲージ役を削りに行って、アフェに届かなければ集団戦勝てるでしょって判断だと思います。アカリジャックスヴィエゴも出たり入ったりが得意なので。
まぁインゲームはルシアンがスノーボールしてすぐ終わったけど…
ブルーサイドがバンピックを有利に進めるケースばかりだけどレッドサイドが有利になるのってどういう状態なんだろ?opチャンピオン3体でブルー1体、レッド2体とれるとかtopでカウンター当てるくらい?
フレックスピックで出せるチャンプが強いメタで、赤側が構成を読ませずに最後の1枠で青側の構成に対するハードカウンター出した時なんかは赤側めちゃくちゃ有利になったなと思う
消しきれないくらいOPとかそれに準ずるチャンプが多い時もレッド強いよね
ブルーはファーストピックで1体だけどレッドは返しで2体とれるしね
すごいなと思いつつソロQプレイヤーには関係ないなと思った
コンビネーションピックは関係あると思う
botだけでなくヤスオグラガスとかガリオorカミール+ノクターンとか他にもプロに限らずシナジーあって強い組み合わせたくさんある
LoLじゃんけん上手い人本当に凄いと思うわ
WCSのDRXのBPがとてもすごかった記憶
あれも解説してほしいな〜
ヤスオ+ザック
でも結局Kingenにエイトロ渡したT1は1v5されて負けたんだよね
それなんか関係ある?
今回の記事のチャンピオン評価もドラフトについての考察もQooコーチのものであってT1がどういう評価を下してたのか不明
無論同じチャンプであっても使い手によってパワーが変わる
T1が1v5されて負けた だから何だろうか?結果としてT1が評価を間違ったってことしか分からない
QooコーチはCGAのコーチであってT1のコーチじゃないんだよ この記事はQooコーチのドラフト論だからね
その試合について議論したいなら”結局”なんて勝手にまとめてないでもっと具体的に書きな
関係あるって程ではないけど、わざわざ噛み付く程でもないですよね
思ってたよりフィオラが奮わなかった試合は仕方ないkingenうますぎた
グウェン出した試合は知らん
プロの試合は基本的にはスクリムで結果が良かったものを出すので一般人にはわからないこともある
面白かった。
5人プリメでclashやるから助かる
まあclashだとピックもバンもOPより習熟度重視の方が良いことが多いけど…
QooはたしかKRマスターだっけ? やはりそれなりに説得力があるわ
プロシーンのバンピックはソロキューのレートはあんまり関係なくないか、そりゃメタもチャンプもよく理解してないブロシルじゃ研究するのも不可能だろうけどこんな高度な駆け引きは流石に野良じゃKRチャレでも起きないだろうし