皆さんこんにちは。Qooと申します。
現在、Crest Gaming Actでコーチを務めております。
今回も、前回に引き続き、プロシーンのドラフトについてお話しいたします。
前回の記事はこちらです。
皆さんが少しでもプロシーンのドラフトに興味を持ってくださるきっかけになると嬉しいです。
それでは、宜しくお願いいたします!
カウンター封じ
これはレッドサイドで用いられる、相手のカウンターピックを封じる手法です。
ドラフトは大きく分けて前半と後半に別れます。
前半ではお互いに3つバンして3つピック。
後半ではお互いに2つバンして2つピック。
この手法では、前半の一番最後の3番目のピック(3rdピック)でピックしたチャンピオンのカウンターピックを、後半の一番最初のバン枠(4番目と5番目)を使用して封じます。
これによって、次のようなメリットを得ることができます。
- 3rdピックのチャンピオンのパワーを発揮しやすい
相手の明確なカウンターピックをつぶせるので、ピックしたチャンピオンの一番強い時間まで無難に育つことができます。選手がやりたいプレイもしやすく、有利を築くことが見込めます。 - 3rdピックのチャンピオンを柱にした構成を作りやすい
ピックしたチャンピオンが強い時間帯に一緒に活躍できるチャンピオンを選びやすいため、ドラフト序盤から試合全体を通したゲームプランを描きやすいこともメリットのひとつです。 - 相手の戦略に制限をかけやすい
カウンターピックを出しにくいということは、レーン主導権を築きにくいということに繋がります。そのため、チーム全体の序盤のアクションを困難なものにします。「ドラゴン・ヘラルドを押さえたい、ジャングラーのファームを助けたい、序盤でガンク可能なレーンを準備したい」など、こうしたアクションを狙っている場合、レーン主導権を取れないことは大きな足かせとなります。
カウンターピック封印のケーススタディ:EG 対 JDG
この例では、レッドサイドが3rdピックでサイラスを取っています。
続く2回目のバンフェーズで、レッドサイドはアカリとビクターというサイラスのカウンターをバンしています。
サイラス対アカリのマッチアップは、序盤弱いはずのアカリが有利を取るマッチアップです。
サイラスがEで入っていってもアカリにEで逃げられるなど、多くのスキルが相性が悪いマッチアップとなっています。
また、サイラス対ビクターのマッチアップも、ビクターが序盤から有利を取るマッチアップです。
さらに、ビクターのウルトはサイラスが盗んでも、あまり強くありません。
そのため、消しておきたいピックなのです。
さらに、ビクターはルシアンの往年のカウンターとして知られています。
射程の短いルシアンはビクターのWなどを苦手としていますし、ビクターのウルトには短いサイレンス効果がついているので、ルシアンのウルトを止めることができます。
NAの有名なプロであるDoublelift選手のルシアンがビクターに突っ込んでいき、一瞬で蒸発したのは有名です。
このドラフトにはさらに興味深いポイントがあるので、別の角度から見てみましょう。
レッドサイドはファーストピックとセカンドピックでルシアン&ナミという強力なコンビネーションピックを取ることに成功しています。
それに対し、ブルーサイドはカリスタとレナータというルシアン&ナミに対抗できるピックで返してきました。
ところがこの一手は、サイラスが盗んだら強いウルトを持つチャンピオンを揃える結果になってしまいます。
マオカイ、カリスタ、レナータ、セト、フィドルスティックス……。
すべてのチャンピオンのウルトがサイラスに盗まれてしまうと非常に強力なのです。
レッドサイドはルシアン&ナミを隠れ蓑に、サイラスを影のエースとした構成を作ることに成功しています。
また、フィドルスティックスはInspired選手の得意なポケットピックですが、プロシーンでは運用が難しく、あまり見られるピックではありません。おそらく、ビクターをバンされたことによって、やむなくAPジャングラーをピックせざるを得なくなってしまったという事情があったのだと思われます。
もしレッドサイドがビクターをバンし忘れていたら、ブルーサイドはジャングルにリー・シンなどの安定ピックを取ることが可能で、円い構成が作れていたと思われます。
この手法は、相手チームが使用可能なチャンピオンを把握している場合最も有効となります。
そのため、チャンピオンプールが狭いなどの欠点を持つチームには特に使用されることが多いです。
フレックスピック
最初にご紹介するのはフレックスピックです。ドラフト戦略の中でも、メジャーな考え方だと思います。
フレックスピックとは、複数のロールをこなせるチャンピオンをピックすることを指します。
フレックスピック可能なチャンピオンは、パッチによって異なります。最近の例で言えば、マオカイが挙げられます。
マオカイは、トップ、ジャングル、場合によってはサポート運用もできるため、合計3ロールフレックスが可能なチャンピオンです。World2022でも多くピックされたチャンピオンなので、覚えている方も多いのではないでしょうか。
もう一つ、最近のホットな例としてサイラスが挙げられます。
サイラスは、プレシーズンの変更によりジャングルでの運用が可能となりました。ジャングルコンパニオンによりラプターなどが狩りやすくなったこと、カウンタージャングルがしにくくなったことなどの影響により、ジャングルサイラスは最新メタとして注目されています。
他にも、
- レネクトン:トップ / ミッド
- アカリ:トップ/ミッド
- イレリア:トップ/ミッド
などが、フレックスピックとしてよく運用されるチャンピオンです。
もちろん、これら以外にも研究されつくされていないフレックスピックが眠っている可能性はあるでしょう。
フレックスピックにはさまざまな長所が存在します。
- 相手側から見て、そのチャンピオンがどのレーンで運用されるのか分かりづらくすること
- 相手が対面で出すチャンピオンがカウンターの場合、別のレーンに逃がすなどして、そのマッチアップを回避する選択肢を取ることができること
- 相手が対面で出すチャンピオンが判明した場合、カウンターとして当てて有利を作れること
このように、フレックスピックの長所は相手を撹乱できることに集約されます。うまく使えば相手の構成や戦略を揺さぶることができるのです。
ただし、弱点も存在します。
- フレックスピックするチャンピオンの練度が高くない場合、使用しづらいこと
- フレックスピックで先出ししたチャンピオンに対して、それぞれのレーンでカウンターを出され対処が難しくなること
このように、便利なフレックスピックにも運用が難しい側面があります。
フレックスピックのケーススタディ:HLE 対 KT
それでは、フレックスピックがカウンターされてしまった例を一緒に見ていきましょう。
パッチは11.14です。少々古い例になり恐縮です。
ブルーサイドはトップ/ミッドのフレックスピックであるイレリアをファーストピックします。
対してレッドサイドはファーストピックとセカンドピックで、セトとグウェンをピックします。
パッチ11.14当時、セトはトップ/ミッドの2ロール、そしてグウェンはトップ/ジャングルの2ロールで運用可能なチャンピオンでした。
そして、イレリアはグウェンに対してもセトに対しても不利なチャンピオンです。イレリアはトップとミッドのどちらに行っても不利なレーン戦を強いられることになってしまいました。
ブルーサイドの思惑は、トップ/ミッドのフレックスであるイレリアをファーストピックすることによって、レッドサイドを撹乱させるというものだったと思います。しかし、それをさらなるフレックスによってカウンターされてしまったのです。
そもそも、イレリアというピーキーなチャンピオンをファーストピックするのは、一般的に考えるとかなりリスキーな一手です。
なぜブルーサイドはこのような手に出てしまったのでしょうか。
おそらく、レッドサイドがセトとグウェンをフレックスで出せるという情報を持っていなかった可能性が考えられます。その結果、フレックスを返されてしまい、いびつな構成になってしまいました。
フレックスピックは上手に活用できれば非常に強い戦略です。ただし、相手の機転によって返されてしまう場合もあるので、万能戦略ではありません。そこが難しいところでもあり、面白いところでもあります。
あとがき
今回は厳選してご紹介しましたが、正直に申し上げると、異なる考え方は無数に存在すると思います。
メタによっても、チームによっても、まったく違う案が出てきます。LJLで試合をしていても、国外のチームとスクリムをしていても、そのたびに新たな学びがあります。
それがLoLというゲームの奥深いところだと思います。
まだまだ実力が足りない私ですが、この記事を読んでくれた皆様が少しでもドラフトに興味を持ち、もっとプロシーンを楽しんでいただくきっかけになれば嬉しいです。
プロシーンを観戦するのがさらに楽しくなるでござる。
コメント
管理忍…あけおめと言ってくれ…
明けましておめでとうございらます。
コメント少なすぎて草
あけましておめでとうございます。このシリーズ好き。
真の視界を獲得
あガイガイ
『フレックスチャンピオンなのを知らなかった』
ということでなくて、
『フレックスとして運用する準備をしてきているのを知らなかった』
ってことでしょ
全く練習してないチャンピオンを普通は出さないから、しっかり準備してきた作戦にハマってしまったってことじゃないの?
あーりまおかいおーんめてぃーもさいおん
記事自体は面白いんだけど、
見てわかる情報を噛み砕いて書いてくれてるから、
上の書き込みみたいな感想があるのもわからんでもない
カードゲームでいう第一ターンの解説に近いのかも
実際はパッチによるメタの組み合わせ、
相手チームメンバーの情報からのピック予想
自チームの練習状況やら絡むのをあの短時間でメンバーと調整するんだから凄いわ
欲を言うなら自チームの対戦からも1つ例として
1手毎の解説が欲しかったかなあってくらいだがそれは機密なんだろうな
Qooは試合前インタビューで話過ぎるコーチとしてLJL内で有名だから、機密はあってないようなもの
普通に面白かったので
次もお待ちしてます
vol3でも別コーチ視点でも