突然の体制変更からの快勝。Pazヘッドコーチが語るDFM再建の舞台裏
突然の体制変更によりヘッドコーチに就任したPaz。
「課題はすべて修正可能。次は必ず勝てる」
その言葉通り、プレイオフをかけたSHG戦でDFMを2-0の完勝に導いた。
しかし、その裏では衝突や葛藤、そして指導者としての迷いが交錯していた。
彼はいかにしてチームをまとめ上げ、新たな風を吹き込んだのか。1時間にわたるロングインタビューで迫る。
LoL忍者:Pazヘッドコーチ、本日はよろしくお願いします。
Paz:こちらこそ、よろしくお願いいたします!
LoL忍者:SHGに2-0で勝ちましたね。いち視聴者として、DFMがSHGに勝つことは難しいと常々感じていました。でも、Pazさんがヘッドコーチに就任したことを知り「これはわからなくなってきたな」と。
本日はヘッドコーチとしての取り組みについてお伺いしたいと思います。まず、どのような経緯でヘッドコーチに就任することになったのでしょうか。
Paz:僕はもともとアシスタントコーチとして、Ares前ヘッドコーチのサポートを行っていました。具体的には、韓国人であるAresさんの会話のサポートや、現場でのドラフトの修正などです。その後、DFMが体制変更をすることになり、僕が指名されたというのが経緯です。「1年は無理でも、1シーズンならできるかもしれない」と。
LoL忍者:なぜPazさんがヘッドコーチに指名されたと思いますか?
Paz:自分なりに思うのは、まず選手経験が長いこと。そして韓国語も話せるので、韓国人選手との意思疎通がスムーズなことですね。アシスタントコーチ時代から、韓国人と日本人をつなぐブリッジのような役割を担ってきました。
勝敗を分けるのは「心の強さ」
LoL忍者:なるほど。では、アシスタントコーチ時代から、DFMの根本的課題として感じていたことは何でしょうか。
Paz:一番大きな課題は選手のメンタル面です。スクリムでは上手にできるのに、いざ本番となると普段通りのパフォーマンスを発揮できなくなってしまう。これはなんとか修正しなければいけないと常々感じていました。
LoL忍者:メンタル面はどれだけ場数を踏んだかという要因もあれば、もともとの性格由来の要因もあるでしょうし、難しそうですね。
Paz:そうですね。でも、それもプロとしての実力のうちだと考えていて。高いプレッシャーがかかる状況でも、常に普段通りのパフォーマンスを出せることがプロには必要です。
LoL忍者:確かに。では、その課題を解決するためにどのようなアプローチを取ったのでしょうか。
Paz:仰るように、メンタル面の課題は簡単に克服できません。フィードバックで「あなたはメンタルを強化してくださいね」と伝えたところで、すぐに修正できるようなものではありませんからね。
そもそも、なぜプレッシャーを感じてしまうのか。一人で責任を抱え込んで、重い判断をしようとするからですよね。そうすると、普段通りのパフォーマンスを発揮することができなくなってしまう。
そこで、実行可能な解決方法として、「インゲームの判断は話した上でチームでしっかり統一しよう」と方針
を定めました。
こうすることで、少しずつではありますが、本番でも普段通りのパフォーマンスを発揮できるようになってきました。
LoL忍者:なるほど。選手たちはスムーズにPazさんの方針を受け入れてくれたのでしょうか。というのも、途中で指導者が変更になるのは難しい状況ですよね。信頼関係を築き上げるのも大変です。
Paz:そのあたりは割とスムーズでしたね。AriaもHarpも頭が良い選手なので、話を飲み込むのがとても早いです。RayFarky君もプロとしてのキャリアが長いので、柔軟にチームの状況を判断できる選手です。Kakkunは僕が声をかけた選手ですし、Sengoku Gaming時代にオンラインコーチとしてでしたけど、1シーズンだけ見ていましたからね。
LoL忍者:スムーズにヘッドコーチに就任できたのは良いことですね。ヘッドコーチに就任して、まず行った具体的なアクションはなんでしょうか?
Paz:まずはコミュニケーション強化ですね。コミュニケーションはすべての土台です。意思疎通が図れなければ、どんなに優れたアイデアでも実現できません。そこで、新加入のCitrusに、日本語のレッスンを行いました。毎日30分から1時間、練習前に行っています。
揺らぐ信頼 ― 常識を超えて一人ひとりと向き合う決断
LoL忍者:ヘッドコーチの役割は多岐にわたるんですね。お話を伺っていると、特に行き詰まることなくヘッドコーチのお仕事をされているようですが、難しいことはなかったのでしょうか?
Paz:いやいやいや、全然! 難しいことだらけですよ。今も「ヘッドコーチはまだ早かったんじゃないか? もっとコーチとしての下積みが必要だったんじゃないか?」と思いながら必死に仕事をしています。
LoL忍者:一番困難だった出来事はなんでしょうか?
Paz:esportsに限らず、どんなチームの取り組みでもそうだと思いますが、真剣に取り組むからこそ熱くなりやすいですよね。そうすると、選手同士で衝突が起こってしまうことがあります。
実は一度、それが信頼関係にヒビが入るくらい深刻な状況に発展してしまったことがあって。
これには本当に慌てましたね。あーどうしよう、あーどうしようって右往左往する感じでした。
LoL忍者:どうやって解決したのですか?
Paz:チーム内部で相談し、競技シーンにおけるDFMのマインドや規範を改めてコーチ、選手間で振り返りました。ここで「そもそも、ヘッドコーチの僕がしっかりしていれば未然に防げたことだな」と気づけたんです。その後、一人ひとりと綿密にコミュニケーションを取ることで、改めて一致団結することができました。
LoL忍者:それは良かったですね!
Paz:ただ、こういう課題って、一回解決すれば終わりというものじゃないですからね。姿を変えて新たな課題として浮上してきたりします。なので、僕の根本的なアプローチを変える必要があると感じました。
LoL忍者:具体的にはどのようなアプローチでしょうか?
Paz:今までの僕は、選手個人の意見もある程度聞いたり尊重した上で、「チーム全体としてこうして行こう」とか「チームゲームを考えたら常識的にこうしたほうが得だよね」といった感じで、全体の方針を大事にすることが多かったんですよね。
でも当たり前ですが、常識って人それぞれ違うじゃないですか。LoLの常識も、選手たち一人ひとり違うんで
すよね。それなのに全体に向けて「これが常識だよ」と話したとて、理解が深まらないわけです。
だから、納得できないような感じがちょっとでもしたら、しっかり納得してもらえるようになるまで話し合ったり、選手一人ひとりの個性に合わせたアプローチを取ることにしたんです。
LoL忍者:なるほど。課題の捉え方、学び方、理解の深め方は人それぞれ違いますもんね。
Paz:そうなんですよね。表面的な理解から本質的な理解に二人三脚でたどり着くというか。そうすることで、選手たちの理解を深めることに役立てたのかなと思っています。
ドラフトが終わった瞬間に確信した勝利
LoL忍者:そうした取り組みが、SHG戦の2-0勝利につながったわけですね。
Paz:そうだと思います。SHG戦はとても自信がありましたね。「これは勝ったな」と。ドラフトが終わった瞬間、勝利を確信しました。
LoL忍者:V3 Esportsでの現役時代の頃から、Pazさんは対戦相手を分析するのが得意な印象です。その頃も強敵DFMを打ち破りWorldsに出場しました。今回のSHG戦のポイントは何だったのでしょうか。
Paz:いくつかあるのですが、主に負け筋を共有することに注力しました。「こうなっちゃうとSHGには勝てないよね」と。
具体的にいくつか挙げると、ミッドのFATE選手をフリーにしてしまうこと。自由にプレイメイクされてしまうと、極めて苦しい展開になります。
もうひとつは、ジャングル、ミッド、サポートのピックで押されてしまうこと。序中盤の試合展開を作るのはジャングル、ミッド、サポートですから、最低でもひとつは有利なピックを実現できるようドラフトには注意を払いました。
LoL忍者:なるほど。プレイオフがかかった試合では、見事に作戦が決まりましたね。
Paz:うまく行ってホッとしました! スクリムでも対SHG戦を意識した練習を行いました。スクリム相手が仮想SHGになるよう、ドラフトを誘導したりして。
Kakkun、攻める才能が光る瞬間
LoL忍者:Kakkun選手も、いいパフォーマンスを見せていましたね。Kakkun選手はPazさんがDFMに誘ったということでしたが、そもそもなぜ元ミッドレーナーのKakkun選手をADCとして獲得したのでしょうか。別の言い方をすると、Pazさんから見たKakkun選手の優れた点はどこでしょうか。
Paz:一言で言うと、LoLのセンスがすごく良いんですよね。
つまりKakkunってアグレッシブにプレイできるんですよ。
というのも、今のLoLって攻めないと勝てないゲームなんですよね。要所要所でリスクを取ってアグレッシブにプレイしないと勝てない。そういうゲームです。
Kakkunはリスクを取るべき瞬間とか、アグレッシブに攻めることができるアングルを、自分で見つけて実行することができる選手なんです。
SG時代はKakkunはミッドで、僕はオンラインコーチとしてプレイを見ていたんですけど、その頃からこの部分についてはすごく感じていましたね。
LoL忍者:そうだったんですね。Kakkun選手とは一度インタビューでお話したことがありますが、メンタルも強い印象です。プロ選手はいろいろな評価を受けるものですが、周囲の声を一切気にしていない様子でした。
Paz:そうなんですよね! Kakkunの良いところのひとつに、本番にすごく強いというところもあります。そういうこともあり、Kakkunならやってくれると信じていました。
RayFarky、敗北を糧に殻を破るトップレーナー
LoL忍者:RayFarky選手も、SHG戦の二試合では動きが格段に良くなった印象です。何か特別なコーチングを行ったのでしょうか?
Paz:そうですね。実は、スプリット2でSHGに1-2で負けた時に僕が感じたのは、チーム全体のマクロではなく、個人個人の細かい部分を修正するのがとても重要ではないかということでした。
その上で一番簡単に改善できて効果がありそうなのがトップレーンでした。そこで、SHGに1度負けた後にRayFarky君と話し、スクリムの個人画面を1週間見続けてひたすら個人フィードバックを繰り返しました。
LoL忍者:なるほど。RayFarky選手の動きを改善すれば、効果が大きいと考えたんですね。
Paz:はい。Rayfarky君は最初にSHGに敗北した時も、レーニング段階ではEviさんに押されてなかったですし、むしろ余裕あるくらいの感じだったんですよね。
それなのに、試合の中で存在感を出せないのは一体なぜだろうと。個人画面を見ながら、どうやったらもっとトップがゲームに関われるようになるのかについてたくさん話しました。
LoL忍者:具体的にはどのようなフィードバックをしたのでしょうか。
Paz:RayFarky君が1v1で勝っていて余裕がある際、ターンが余ってるときの動きやコール、チームファイトのポジショニングなどですね。逆に、相手のターンが余ってるときのコールや、ターンがない時どのように相手に合わせられるようにするかについても話しました。
LoL忍者:なるほど。直近の2試合では、まさにその部分が良くなっていた印象です。
Paz:RayFarky君にはシーズンを通して「自分の有利をどうチーム全体に広げるか」と「ゲーム全体の流れを掴むこと」を何度も何度もずっと伝えてきました。
敗北のあとも本当に努力してくれて、その成果がSHG戦でしっかり表れていたと思います。2試合とも目に見えてパフォーマンスが向上していて、本当によく頑張ってくれました。感謝しています。
重圧に押し潰されそうな夜をどう乗り越えたか
LoL忍者:元トップレーナーであるPazさんの真骨頂ですね。以前のインタビューでは「ヘッドコーチは楽しいというより、難しいという気持ちが強い」と仰っていましたが、楽しめるようになってきましたか?
Paz:うーん、まだまだですね(笑) SHGに2-0で勝てた瞬間は嬉しかったですけどね。
LoL忍者:プレッシャーが大きいと思いますが、どのように対処しているのでしょうか。
Paz:僕は悩みを溜め込まない方なんですよ。悩みを誰かに話して一晩寝ると、翌朝はケロッと治ってるんですよね。
今、マネジャーのBonzinさんとアナリストのGizmoさんと一緒の家に住んでいて。
二人が僕の悩みを聞いてくれるのでだいぶ助かってますね!
LoL忍者:さて、ここからはいよいよLCP上位チームとの戦いが始まります。勝算はあるのでしょうか。
Paz:強いチームばかりですから、簡単に勝てるとは思っていません。ただしBo3ですから、番狂わせを起こすことは十分に可能だと思っています。
LoL忍者:CFOについてはいかがでしょうか。全体的に選手の能力が高い上、ミッドとボットに異次元の選手がいます。特にミッドのHongQ選手を崩すイメージが私には沸いてきません。
Paz:CFOはLCPの中でも別格ですね。本当に強いです。彼らを倒すには、常識的ではない何かを起こす必要があるなと。
DFMをLCP強豪チームに ― そして自分自身の未来
LoL忍者:今のDFMなら奇跡を起こせるかもしれませんね。では、Pazさんのヘッドコーチとしての今後の展望を教えていただけますか。
Paz:ひとつは、DFMをLCPの強豪チームにすること。もうひとつは、「Pazがいればこのチームは大丈夫」だと思っていただけるような指導者になることです。
LoL忍者:ということは、今後もコーチとしてのキャリアを継続するのでしょうか?
Paz:うーん、それは分からないですね(笑) プロの世界ですから。僕がヘッドコーチを望んでも、必要とされなければ続けられないですからね。でも、LoLには何らかの形でずっと関わり続けたいです。LoLは本当に大好きなゲームですからね。
ともに奇跡を起こそう
LoL忍者:世界で勝てる日本人コーチとしての活躍に期待します。それでは、最後にメッセージをいただけますか。
Paz:いつも応援ありがとうございます。
今、インフルエンサーさんたちの活動によって、日本でLoLが再注目されていると思っています。
僕たちはプロですから、勝つのが仕事です。
でもなかなか結果を出せず、ファンの皆さんにはきっともどかしい思いをさせてしまっていることだと思います。
本当に申し訳なく思っています。
みんなLoLが大好きで、真剣にプロシーンに向き合ってくれているからこそ、熱くなるんだと思います。結果を出せない日本勢の現状を見て、叱りたくなるのも当然かもしれません。
ただ、選手たちが勝つために真剣に取り組んでいることはお約束します。毎日必死に戦っています。
もしよかったら、選手たちにポジティブな言葉をかけてあげていただけないでしょうか。
ポジティブな言葉は、本当に選手たちの力になります。
皆さんの応援で、選手たちはいつもよりもっと強くなれます。
ぜひ、よろしくお願いします。
みんなで勝ちましょう!
さらなる進化を期待するでござる。
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コメント
結果を出した後なので説得力あるな
ここから先は難しいかもしれんけど頑張ってほしい